去る11月30日は、晩秋のとてもよく晴れた朝だった。ベイスに会いに鎌倉へ行ってきた。ベイスとは3月24日に神奈川訓練センター(横浜)のトレーニングルームで、盲導犬を引退後初の面会をしていた。今回ベイスに会うのはそれ以来になる。ベイスは、パピー時代に過ごしたボランティアさん、Sさんの所へ戻り、幸せに過ごしているようだった。Sさんはベイスが昨年10月に引退してから再びご自宅に迎えることができ、とても嬉しそうだった。
「ベイスはどんなおうちに住んでるのですか?」と聞くと、「小田原の今の家はベイスには少し住みにくい。今家探しをしてまして、もうほぼ決まりました。私達夫婦も年をとるので、老後を考えて、犬にとってもバリアフリーなおうちへ、もうすぐ引っ越す予定です」
Sさんの犬に対する気持ちの持ちようを聞き、私は感動した。人も犬も、いずれは年をとる。高齢者や老犬にやさしい住宅に住むことは理想的だ。
「家は2階建てですが、エレベーターがありますよ」とSさんは付言した。
鎌倉へ行くのは初めてだった。妻とアーチとぼくは新宿ではなく所沢へ向かった。鎌倉へは新宿から「湘南新宿ライン」で行くのが定番のようだが、後楽の時期ともあって観光客でかなりの混雑が予想された。そこで、所沢から元町・中華街行きに乗って、ムサコで横須賀線に乗り継ぎ、鎌倉へ向かうルートを選んだ。朝9時ごろに自宅を出発、鎌倉に着いたのは12時少し前だった。
Sさんご夫婦とベイスが車で駅へ迎えに来てくれていた。改札にはSさんの奥さんが待ってくれていて、私達はベイスとSさんが待つ車のところへ向かった。車に着いて、Sさんとご挨拶。
ワゴン車の後ろに乗っていたベイスは、車から降りるなり、アーチにまず挨拶をしてくれた。やっぱり犬は犬が一番なんだなと思った瞬間だった。そうして、しばらくはベイスとの再会を喜び合っていた。
車で5分程度でSさんの新居に到着。玄関は間口が広く、段差が低い。家に上がって、テーブルへ案内された。そのテーブルの下にはすでにベイスがいる。先に部屋へ入っていたんだ。ベイスはアーチのために置かれたマットレスの上で「ぼく、ここにいるよ」と言っているようだった。アーチはというと、一人無邪気に遊んでいる。テーブルのある部屋の隣が広い土間のようになっていて、ベイスがワンツーしたり、遊んだり、シャンプー後に乾かすときに使うスペースとなっていた。
いろんなおもちゃがいくつも転がっており、まるで、犬のための小さな公園のようでもあった。そこでアーチはいろんなおもちゃで、しっぽをぶんぶんふりながら遊んでいる。まだ3歳だからなのだろうか、あるいはこれがアーチの個性というものなのだろうか。一方のベイスは、テーブルの下でおとなしくしていた。私はベイスを何度もなでては、「元気だね。Sさんの家族になれてよかったね」と声かけをし、ベイスとのスキンシップにひたっていた。
そうこうしていると、Sさんが「お昼を用意しましたから、どうぞ召し上がってください」と言ってくれ、テーブルの上にはサンドイッチや巻きずし、いなり、スープなどを用意してくれていた。
昼食を頂いて、またしばらくベイスとたわむれていると、Sさんが「エレベーターで上へご案内しますよ」と言ってくださった。2階には仕事場、風呂場、寝室などがあり、驚いたことに、寝室にはご夫婦のベッドのすぐ横にゲージを置いてベイスの寝床にしていた。つまり、ご夫婦はベイスと寝起きを共にしているということだ。
下へ降り、テーブルへ戻ると、私はSさんに尋ねた。「このおうち、Sさんがオーダーメイドされたんですか?すごくきれいだし、ピカピカの新築のようですが」
Sさんの答えは、「いえ、中古を買い、リフォームしました。5年くらい探していました。やっとここを見つけ、これだ、これこそがまさに私達が探し求めてきた家なんだと、ここに決めました」
半年後にはパピー時代に面倒を見たもう1頭の盲導犬が引退の予定だそうだ。そして、引退したら自分たちで引き取りたいとのこと。ベイスはまだ11歳。引退予定の盲導犬が、もしSさんのおうちへ来ることになった場合10歳か11歳ぐらいだろう。レトリーバーの10歳は人間の60歳と考えることができる。Sさんも60代なので、一家みんな60代の、仲の良い家族。正に理想的な家庭だと思う。

帰りは「由比ガ浜海岸」で写真撮影をし、逗子駅まで送ってもらった。逗子は「湘南新宿ライン」の始発駅なので、座ることができるだろうと考え、逗子駅へむかった。丁度入って来た電車に乗り込み、座って新宿まで変えることができた。
鎌倉行きは楽しい小旅行だった。また春ごろにベイスに会いに行きたいなと思っている。

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