住まいを引っ越した。そのために第一に考えたことは、「移動のしやすさ、散歩コースの確保だった。
これまで住んでいたテラスアパートから、地元の鉄道駅に隣接したマンションへ住み替えることになった。
テラスアパートとは、壁を挟んで二戸が連なる二階建ての住居で、専用の庭や駐車場が付いたアパートのことである。
五年前、大阪から上京してきた時、このテラスアパートをとても気に入り、「当分の間はここで暮らすのだろう」と思っていた。日当たりは良く、広い庭がある。最寄り駅までの間に信号がないこともうれしかった。ぼくにとっても、パートナーの盲導犬にとっても、とても暮らしやすい環境だった。ただ、気になることもあった。賃貸である以上、家賃を払い続けなければならないこと。そして、信号はないとはいえ駅まで少し歩くため、将来の自分のこ体力を考えると多少の不安があった。
そんなこともあり、以前から不動産会社に物件を探してもらい、新しい情報をメールで送ってもらっていた。昨年(2025年)の夏、その中に気になる物件情報があり、内覧を申し込んだ。そして、早速妻と一緒に見に行った。
そこは最寄り駅の駅舎に隣接する築四十五年のマンションで、上階の角部屋だった。一階にはスーパーが入っており、買い物にも便利である。
部屋に入って驚いた。室内は全面的にリノベーションされており、浴室や洗面所、トイレなどの水回りは有名メーカーの設備で統一されていた。しかも、価格の割に部屋数が多く、ゆったりとした間取りだった。ぼくたちは、その場でこの部屋をとても気に入った。
一方で気になったのは、盲導犬歩行のことだった。初めての場所なので、ぼく自身が周囲の環境を十分に把握できていない。盲導犬と安全に歩けるだろうか。また、駅に近くなったことで、盲導犬の歩く距離が短くなり、運動不足になってしまわないだろうか。そこで、何度も周辺を歩いて環境を確認し、新しい散歩コースを開拓することにした。
マンションのあるブロックには駅や医療施設、コンビニなどが集まっている。そこから隣のブロックへ行くには、信号のない横断歩道を渡らなければならない。そのまま真っすぐ進むと川沿いの遊歩道に出る。川から吹いてくる風が、ぼくたちを優しく癒やしてくれる。遊歩道を進み、川に架かる橋の袂へ上がる。さらに歩くと、行きつけのマクドナルドがある。そこでコーヒーを飲みながらネットニュースを読む時間は、ぼくにとって至福のひとときである。
散歩コースを覚えるため、妻にガイドをしてもらいながら何度も往復した。最初の頃は不安も大きかった。特に、ブロックからブロックへ渡る際、一歩間違えれば踏切の方向へ行ってしまうのではないかという心配があった。また、横断歩道を渡った後も、遊歩道までの道のりが少し長いため、途中で道に迷ってしまわないかという不安もあった。
それでも何度も練習し、実際に歩く経験を積み重ねた。何事も最初からうまくいくとは限らない。むしろ失敗を繰り返しながら少しずつ身につけていくことで、自信につながるのだと思う。
さらに心強かったのは、信号のない横断歩道の近くに交番があり、その周辺には警察官の姿をよく見かけることだ。「もし迷っても大丈夫。いざとなればおまわりさんにSOS。」そんな安心感も、新しい生活を支えてくれている。
引っ越して2か月。今では、最初の頃の不安は杞憂に終わりそうだ。
新しい環境と、新築同然に生まれ変わった部屋で過ごす毎日を、ぼくは楽しんでいる。
これから、この新しい街で、盲導犬とともに新たな思い出を積み重ねていきたい。

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