盲導犬支援イベントに参加して盲ろう者のぼくが考えたこと|富士ハーネス訪問ツアー

 盲導犬総合支援センターのツアーに参加して

 盲導犬総合支援センターが主催するイベントに、初めて参加した。内容は、富士ミルクランドと盲導犬の里・富士ハーネスを巡るバスツアーである。

 この素晴らしい企画について、ぜひ多くの方に知ってほしいと思った。ここでは、当日の様子を報告するとともに、盲導犬の役割についても触れてみたい。

イベント当日を迎える

ツアー当日の二月十四日は全国的に晴れ渡り、雲一つない青空にそびえ立つ富士山は、まさに絶景だった。 ツアーに参加したのは、盲導犬ユーザー、ファンクラブ会員、スタッフを合わせて総勢七十名。さらに二十五頭の犬たちも一緒だったため、大変にぎやかで、終始楽しい雰囲気に包まれていた。

 より多くの方が参加できるよう、集合場所は品川駅と新富士駅のどちらかを選べるように配慮されていた。

ツアー前日は新富士に前泊

 ぼくたちはツアー当日を心ゆくまで楽しもうと、前日に新富士入りし、駅前の東横インに宿泊した。

 翌朝は、ホテルの朝食バイキングを腹いっぱい食べ、大満足だった。ぼくが知っている東横インの朝食は、おにぎりと味噌汁、数種類のパンに簡単なおかずという印象だった。しかし、今回宿泊したホテルは品数が豊富で、どれを食べようかと選ぶのも楽しかった。

いざ、バスで目的地へ出発

 新富士駅の集合時間は九時四十五分。受付で名前が書かれたシールを受け取り、胸元に貼り付けた。しかし、着ていたジャケットの素材のせいか、すぐに剥がれてしまった。

 一方、妻が受け取ったのは、名前を書いた紙をケースに入れて首から下げるタイプの名札だった。そこで妻の提案により、ぼくのシールをその名札に貼り、首から下げることにした。

 どういうわけか、盲導犬ユーザーにはシール、付き添い者やファンクラブ会員には首から下げる名札が配られていた。シールは、コートやジャケットの素材によっては、すぐに剥がれてしまう。

 盲導犬ユーザーと、そのパートナーである盲導犬については、ファンクラブの皆さんにぜひ知ってもらいたい。そう考えると、ユーザーにも首から下げる名札のほうが良かったのではないだろうか。付け加えるなら、当日の参加者名簿も配られていれば、さらに交流しやすかったと思う。

 十時を少し過ぎたころ、大型観光バスは新富士駅を出発し、最初の目的地である富士ミルクランドへ向かった。所要時間は約一時間。道中の車内では、盲導犬ユーザーが一人ずつ自己紹介をしたり、通路を挟んだ隣の席に座るファンクラブ会員のご夫婦と、おしゃべりを楽しんだりした。

 話をしていると、そのご夫婦も、ぼくたちと同じホテルに宿泊していたことが分かった。朝食会場の前で、妻が席を確保しに行っている間、ぼんやりと立っていたぼくに声をかけてくださったそうだ。

 ぼくがアーチと一緒にいたため、目が見えないことは分かっても、聞こえないことまでは外見から判断できなかったのだろう。ぼくは声をかけられても、まったく気づくことができない。こういうときは、肩や腕などに軽く触れて合図をしてもらえると、とてもありがたい。

富士ミルクランド

 富士ミルクランドでは、バターづくり体験とランチが予定されていた。

 品川駅から出発した一行が十分ほど遅れているとのことだったため、待っている間、めったに見ることのできない富士山の絶景を背景に、記念写真を撮ることにした。

 富士山を背に、アーチと一緒に写真を撮っていると、ファンクラブ会員の方から、

「ぼくも黒ラブちゃんと一緒に写真を撮っていいですか?」

 と声をかけられた。

「いいですよ」

 と答えると、別の方からも「ぼくもいいですか」と声がかかった。「はい、どうぞ」と応じているうちに、次々と撮影を待つ人の列ができた。おそらく十人近くになっていたのではないだろうか。

 ファンクラブの皆さんは、本当にラブラドールが大好きなのだろう。アーチだけでなく、ほかのユーザーの盲導犬とも盛んに写真を撮っていたようだ。

 品川組も到着し、全員がそろったところで、バターづくり体験の会場であるカフェへ移動した。用意されたテーブルに着き、同じテーブルの人たちと、しばし交流の時間を持った。

 ぼくのテーブルには、初対面の男性ユーザーが一人とファンクラブ会員の方が一人、そして、ぼくたち夫婦が座った。

 そのユーザーは背が高く、身長は百八十センチほどあるという。ユーザーの身長が高い場合は、背の高い犬を選んだり、ハーネスの長さを変えたりして調整するそうだ。

 彼のパートナー犬は座高が高そうだったが、触らせてもらう機会を逃してしまった。それが少し残念だった。

 バターづくり体験は、生クリームと水が入った小さな容器を、五分から十分ほど振り続けるというものだった。耳元で容器を振り、水の音がしなくなったら出来上がりだという。

 しかし、聞こえないぼくには、音で出来上がりを判断することができない。どうすればよいのか分からないまま、ひたすら容器を振り続けた。

 手がだんだん痛くなってきたころ、容器の中に塊のような感触が現れた。どうやら出来上がったようだ。こうして完成したバターを、配られた四枚のクラッカーにのせて食べた。

 バターづくり体験の後、同じ場所でランチのチーズインハンバーグ定食が配られた。

 ツアーの日程が予定より押していたため、ミルクランドのショップを見たり、ヤギに触れたりする時間がなかったのは残念だった。

盲導犬の里・富士ハーネス

 再びバスに乗り込み、五分ほど走ると、今回のツアーのもう一つの目的地である「盲導犬の里・富士ハーネス」に到着した。

 ここでは十四時から、盲導犬のデモンストレーションが行われた。ファンクラブ会員向けの企画で、センター長の挨拶に続き、盲導犬の基本的な仕事についての説明と実演があった。その間、ユーザーたちはそれぞれ仲間を見つけ、三々五々、おしゃべりを楽しんでいたようだ。

 富士ハーネスは、雄大な富士山の麓に位置している。ただし、アクセスが良い場所とは言い難い。

 新富士駅から休暇村富士行きのバスに乗って約一時間。「白糸の滝入口」で下車し、そこからタクシーで約五分かかる。タクシーは事前に予約しておく必要がある。

 施設の周囲は広大な牧草地に囲まれ、見渡す限り、のどかな風景が広がっている。

 盲導犬の里・富士ハーネスは、日本盲導犬協会が所有する四つの訓練センターの一つで、二〇〇六年に開設された。子犬の誕生から引退犬の老後まで、盲導犬の一生を通じたトータルケアが行われている施設である。また、日本盲導犬協会の施設の中で、唯一予約なしで見学できる訓練センターでもある。

 ここで、再びデモンストレーションの話に戻ろう。

 盲導犬の役割は、視覚障害者の歩行を安全に支えることである。主な仕事として、次の三つが挙げられる。

 一つ目は、障害物を見つけて回避すること。

 二つ目は、横断歩道などの段差や曲がり角で停止すること。

 三つ目は、階段の手前で止まることである。

 さらに、特定の場所を「目標」としてしっかり覚えさせておけば、その場所まで案内してくれることもある。例えば、よく利用する建物の入り口を覚えていれば、「ドア・ゴー」という指示で、その入り口を見つけてくれる。

 ぼくの盲導犬は、こうした基本的な仕事に加えて、来客があったことを教えてくれたり、電車やバスが近づいてきたことを立ち上がって知らせてくれたりする。

 ぼくが聞こえないことを理解し、自分なりに工夫して行動しているのだろう。本当に優秀で、頼りになるパートナーだ。

 一方で、盲導犬にもできないことがある。例えば、信号の色を判断することはできない。また、タクシーのように、行き先を告げれば初めての目的地まで連れて行ってくれるわけでもない。

 盲導犬が安全に仕事をするためには、ユーザー自身が周囲の状況を判断し、盲導犬に適切な指示を出すことが必要なのである。

いよいよ帰路へ

 デモンストレーションの終了後、富士ハーネスの正面玄関に全員が集合し、記念写真を撮影した。その後、バスに乗り込み、新富士駅への帰路についた。

 短い時間ではあったが、このツアーに参加したことで、盲導犬ファンクラブの存在を知ることができた。そして、盲導犬の育成事業が、実に多くの人々の善意によって支えられていることを、改めて実感した。

 盲導犬ユーザーとファンクラブ会員の皆さん、そして盲導犬を支えるスタッフが交流できた、実り多い一日だった。

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